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haluta 365 REGULAR BOOK

LIVING, LIFETIME BEST

自分史上最高の、居場所のつくりかた

vol.8

November
,04,2016

信州の台所 #4 別所温泉近く、塩田平に暮らす台所

posted by ASAKO FUJINO

 

上田駅から千曲川を越え、別所温泉の方面へ向かうと、とたんに空が広くなる。
山々に囲まれた塩田平と呼ばれる田園地帯。
盆地を生かした田畑と果樹園が広がり、秋には黄金色の稲穂と真っ赤に熟したリンゴが目に鮮やか。
歴史ある寺社仏閣も点在し、「信州の鎌倉」とも呼ばれている。
ぐるりと車を走らせるだけで気持ちがよく、ときどきふらりと出かけたくなるエリアだ。

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山から平地へと紅葉の色づきも移り変わる頃、この塩田平に暮らす友人、トモコさんを誘って、ドライブに出かけた。
トモコさんは数年前、同じ上田市内から別所温泉近くに引っ越した。
中古住宅を使いやすくリフォームし、夫とふたりの息子さんと暮らしている。
まだお子さんも小さいので、フルタイムの仕事はしていないが、ある時はフェルトやオーブン粘土を使ったアクセサリーをつくる作家さんとして、またある時は農や食に関するNPO法人のコミュニティレストランを手伝ったりと、なんだかんだ顔が広く、上田を中心とした交遊も多い。
生まれも育ちも高知という南国気質だからだろうか。さっぱりとして明るく、肝っ玉の据わった彼女に会うと、いつも自然と元気を分けてもらえる。

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この日の別所温泉ドライブ。
まずは、今年オープンしたばかりのパンと雑貨の店「まるふじとムスビ舎」へ案内してもらう。
東京から長野に移住したパン職人さんと、地元育ちで雑貨を取り扱うふたりの女性が切り盛りする、近頃ウワサによく聞くお店。
元は配給所だったという古い建物をリノベーションした店内。渋めの温泉街では異色な存在だが、レトロさと新しさのミックス感が程よく、居心地がよい。
焼きたてのパンの甘い香りが漂うなかに、上田市内の花屋「ポンポネ」のドライフラワーや、興味をくすぐられるおしゃれな雑貨が並んでいる。
トモコさんとふたり、(ふだんの私たちにはそぐわない)女子的テンションをキャッキャと高め合いつつ、パンと雑貨を選ぶ。

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続いて、トモコさんも行きつけのコーヒースタンド「別所エスプレッソ」へ。
実はこの数年、よく言えば「古き良き」、悪く言えば昔から代わり映えのしない温泉街というイメージの強かった別所温泉に、新しい風が吹き始めていることを、上田界隈に詳しい方ならご存知のはず。
自家焙煎珈琲が人気(なんと備長炭を使ったハンドロースト!)のこのコーヒーショップこそ、そのニューウェイブの先駆け的存在。
近隣に若い世代が営む新しい店が増えたり、イベントが行われるようになったり、本人(店主の星野さん)が意図したかどうかは別として火付け役となっている。
この日もたまたま立ち寄ったのに、上田で本屋を営む別の友人ともバッタリ。
この場所に流れる独特のゆるい心地よさにつられて、そのまま話し込んでしまいそうになったが、テイクアウトでコーヒーを注文して(ここで「私はいつもの」と注文するトモコさんに軽くジェラシー)今日のところは早々においとまする。

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温泉街を少しひやかしてから、「お腹が空いてきちゃったな」、狙い定めたようにつぶやいてみたら、「じゃあうちでパスタでも茹でるよ」とトモコさん。
街巡りも楽しいけれど、やっぱり落ち着くのは彼女の家。
特に魅力的なのが、彼女が自分が使いやすいようにリフォームの際に力を込めた台所。
「別になんの変哲もないんだけど…」と言うが、そこ、そこがいいのだ。
スペース自体はシンプルな一列の横並びスタイルだが、余計な吊り戸棚収納などは取っ払い、調理ツールやスパイスは無造作に窓辺に。
既成のシステムキッチンをベースに、扉部分など表面をフローリングと同じ木材で張り替えてある。
もっともグッとくるのが、壁面に使った深いブルーのタイル。トモコさん自身が海外から取り寄せ、大工さんに「これを使って」と実物支給したのだそう。
動線面でも、玄関から一直線に入れる一方、ダイニングともぐるりと回遊できるよう工夫されている。

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ちょっぴり手伝うフリをしながら、ここぞとばかり無遠慮にジロジロと眺め回しているうちに、パスタが完成。
ニンニクの香りと千切りの唐辛子の効いたペペロンチーノ。先ほど買って来たパンと一緒に、優雅で贅沢なランチタイム。
ありあわせの材料でパパッと手早く。わんぱく盛りの子どものいるお母さんなら日常茶飯事だろうけれど、なんだか無性にかっこいい。
料理を仕事とするプロの台所とはひと味ちがう、無造作でてらいのない、地に足のついた毎日の “お勝手” 仕事。

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トモコさんのこの秋の目下の関心事は、干し柿づくり。
「よそのおうちで穫らずにそのままになっている柿があると、わたしが剥くから、干すから、その柿くださいって思わず言っちゃいそうになるんだよねぇ。もったいないでしょ!」すっかり “柿ホリック” である。
この時期、空いた時間があれば、知り合いのリンゴ農家に手伝いにも行っている。
「ふるさとの高知も大好きだけど、今はここでの暮らしが__田舎に住んで、子どもを育てて、畑の手伝いをして、この家で過ごす時間が、すごく気に入ってる。上京して東京で過ごした20代のロック少女の私から見たら信じられないかもしれないけど」
そう言って笑うトモコさんは、もうどこからどう見ても、信州のオンナだ。

帰り際、見上げた2階のベランダにずらりと並んだオレンジの柿すだれが、上田の青い空に映えて、眩しかった。

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posted by ASAKO FUJINO

2004年より浅間山のふもと・北軽井沢に移住。週末のみオープンするブックカフェ「本とコーヒー麦小舎」を営みながら、暮らしまわりや地域文化などを中心に編集・ライター業に携わる。毎年秋に北軽井沢で行なわれる本のお祭り「ブックニック」主催。猫1犬1夫1と暮らす。

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