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いちばん秘密にしたかった信州ガイド

vol.13

December
,20,2016

みちくさ案内#7 森のくすり塾

posted by SACHIE IKEGAMI

「日本で唯一のチベット医」。

今回紹介する場所《森のくすり塾》の小川さんのことを説明するために

多くの人がそうやって説明するんだと思う。

それって一体、どんなひと?どんな場所?

小川さんに会いに、《森のくすり塾》にぶらり出かけていきました。

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以前紹介した「茶房パニ」から車で3分、歩いて10分足らず。

神社の脇道を入っていくとかわいらしい小屋のような建物があらわれます。

 

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「今ちょっと、木を切っていて、、、」と

手慣れた仕草でブータンのカゴに入ったお茶菓子とポットを用意するのは

小川さんの妻でもあり《森のくすり塾》でレイキヒーリングも手がけるミキさん。

ちょうどお茶の時間だというので、ちょっと歩いて現場まで。

 

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この姿を見て、お医者さんだと思うひとはまず居ないんじゃないかと思う。

この写真だけ見ると、まるでうしろのパオに人里離れて一人住んでいるかのようだけど

パオは「茶房パニ」さんの持ち物で、その周りの自分の土地から木を切って引き上げ作業をしている様子です。

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ここで切った木は、《森のくすり塾》の横にもうひとつ小屋を建てて

ミキさんのレイキヒーリングのためのスペースとして使う予定なのだそうだ。

「昔はここも田んぼだったんだって。昔のひとはちょっとでも場所があれば田んぼにしたって言うじゃない。でもそれよりも杉を植えて木材売ったほうがお金になるっていうんで、みんなたくさん植えちゃったんだよね。」

小川さんの話す言葉には、「昔のひと」「いにしえのひと」「もっと前は」という言葉が何度も出てくる。

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信じられないくらいの早着替えをした小川さんと、何を聞くと決めるでもなく話が始まった。

「西洋医学、東洋医学なんて言葉で分けてるけどさ、それって何なの?って思うんだよ。ヨーロッパでもハーブを処方することだってあるし、何を持ってその言葉を使っているのかが、よくわからないんだよね。」

くすりを処方するそのことについても「ちょっと余計なおせっかい」だと思っていると話すその背景には、まず10年間のインド・ダラムサラでのチベット語と医学の勉強に取り組んできたという小川さんの人生がある。

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小川さんの人生は非常にドラマチックだ。

本来、10倍近くの倍率を乗り越えて入学試験に合格したり(しかも試験はもちろん全てチベット語)

インターン期間も含めて10年近くをアムチ(チベット伝統医)になるために費やすというのは、すごい覚悟や強固な意志があってはじめてできることなんじゃないか、と思ってしまう。

でも小川さんはそうではなく、日本でうまくいかなかった自分への言い訳のようにダラムサラに行くことを決め、インドに降り立って2日目にして「ダラムサラを観光したらもう日本に帰ろう」と思う。その日乗ったバスでメンツィカン(チベット医学校)の先生に奇跡的に出会い、入学後も途中でくじけては、自分に渡された「チベット医学探求」のバトンの存在を思いまた立ち上がる。

流さるがままに、導かれるがままに、というとすごく静かなイメージがあるけれど

小川さんのそれは、でかい岩のある激流をパドルも持たずカヤックでくだっていくようなイメージだ。

だから小川さんの佇まいには、「頑固さ」と「どっちでもいいんじゃない?」という風みたいなやわらかさと、どちらも感じるような気がする。

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ヒマラヤの山中に薬草を取りに行く「薬草採取」では20日間のあいだ休みなく薬草を探し回り、何十キロもの薬草を背負って持ち帰る。(なるほどそれなら、チベット医がたくましく木の伐採をしているというのも不思議な風景ではないのかもしれない。)過酷な場所にも行くので、その最中には崖から落ちたり遭難したりということもあるのだそうだ。

 

そのはなしを聞いて、もうそもそも日本の薬局で買うされる「くすり」と、その「くすり」を同じものとして感じるということが自分にはできないな、と思った。

 

「オリンピックの陸上競技とF1レースのスピードを同列で議論するようなもの」だと小川さんが言うように、お互い同じものを目指しながら違う尺度でこの世界に存在している。

 

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最新の医学でも治療ができないと言われたものが、チベットの丸薬で治ることもある。チベット医の経典に載っているものが日本の医学では何百年も前の処置法であった、ということもある。

一部分だけを切り取ればどちらかに優劣はあるのだと思う。でもそれだけで計れないものをどちらも含んでいることはたしかで、実はくすりでサポートできている部分はそこまで多くないのかもしれない。

小川さんがくすりのことを総じて「ちょっと余計なおせっかい」と言うのはそのせいだ。

DSC08026日本ではチベット薬は法律で処方することができない。

そのため《森のくすり塾》では日本の伝統薬を買うことができるのと、こどもたちと山に入って薬草を摘んで、洗って、刻んで、焙煎して、薬草茶を作るワークショップなどを開催している。

どんな薬も効かないように思えても、ここに来て小川さんに

「なあに、大丈夫大丈夫。とりあえず薪割りでもしたらどう?」

と、体を動かし共に時間を過ごすだけで治るものもあるのかもしれないと思えてしまうから何を持って「くすり」と括るのかがわからなくなってくる。

そう考えると、チベット薬が処方できないということと、学んできたことの実践ができないということは全く違うことなんだなと思う。小川さんの人生を持って語れること、教えられること全てが「くすり」となってここには存在している。

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家に帰り、小川さんオススメの富山の薬湯「仙神湯」を一袋お風呂に入れて浸かる。

上がってみて、なんと自分からカレーの香りが漂うのには笑ってしまった。

同じお湯に浸かった人と、お互いを「カレーの匂いがする!」と笑いあって、そのあとも何時間も体が冷えて来ないから「効いてる気がするねえ〜」と笑う。

その時わたしは、小川さんからその笑いあう時間という「くすり」をもらったような気がしてはっとした。効いているかどうかが重要というより、なんだか仙神湯を試してみたりカレーの匂いがするのが楽しかったのだ。

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これから先の人生、小川さんはどんなかたちで「くすり」をひとに渡していくんだろう。

西洋医学も東洋医学も、チベット医であるということも時には飛び越えて、誰かを助け楽しませるひとであることにきっと変わりはなくて、そんなひとが上田に居てくれるという恩恵を、これから大いに受けていこうと思っている。

 

 

INFO

森のくすり塾:http://morinokusurijyuku.net/index.html

TED×Saku(信州の薬草とチベット医学):https://youtu.be/l6O4TX3mHw4

僕は日本でたったひとりのチベット医になった(書籍):http://amazon.jp

 

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posted by SACHIE IKEGAMI

長野県、茅野市うまれ、山育ち。路頭に迷っていた時期に働かせてもらったブックカフェ勤務を経て、自分の人生にはずっと本があったことに気付き、本屋の道へ。現在、上田市のブックカフェ「NABO」店長。http://www.nabo.jp

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