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WEB BOOK : haluta 365

haluta 365 REGULAR BOOK

FUN, MY SECRET SPOT

いちばん秘密にしたかった信州ガイド

vol.15

February
,18,2017

仕事場の営み #1

posted by TAKASHI KOBAYASHI

鳥の声、

朝の空気。

光の差す方、

夜の静けさ。

 

あの人は、ここでなにをみているのだろうか。



「仕事場の営み」 #1

 

田淵三菜
写真家
北軽井沢

=====

DSC_7503

田淵三菜さんが北軽井沢に移り住んだのは、

2012年のこと。

 

森に囲まれた自宅兼事務所「森の写真館3×7(サンナナ)」での、

たったひとりの暮らし。

 

暖をとる、水を通す、雪をかく、

食材を手に入れる。

不便に思われるような生活のひと手間を、

ここではすべて“ 自分でやる ”ということが、

三菜さんの色々な悩みを解きほぐしてくれたのだとか。

 

「あの頃の私は、『自分が本当に撮りたいものはなんだろうか』って、

実は、すごく迷っていて。

もう、写真から離れていたんです。

 

20歳の誕生日に、父からカメラをもらって、

ずっと写真を続けていたけれど、

自分の目に映るもの、

ましてや自分の感性を信じられなくなっていました。

 

 だけど、冬のある日。

雪で真っ白くなった景色に、ふっと心が惹かれて。

私は、もう一度、写真を撮るようになったんです。

気づけば、森に入って行き、美しいなと感じたままに、

ファインダーを覗き込んでいたの(笑)」

DSC_7497

枝木に雪が積もる。風が吹き、木が揺れる。雪が舞う。

 

自然の摂理を探して、
もう一度、カメラを握るようになったあの頃の自分。

 

三菜さんは、無垢な子どものように、

森のうつろいを誰かに届けたくなっていった。

そして、厳しくも、深い“自分”という世界を越えて、

夢中になって森に入っていった。

 

撮り貯めた写真たちは、

1月から12月までの12編の写真集となり、

三菜さんを次の一歩へと導いた。

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2016年。
自らの手で作ってきた一冊の森の写真集「into the forest」が、

第二回入江泰吉記念写真賞を受賞。

 

自身初の作品集となって、全国に刊行されることが決まった。

DSC_7511

取材日。刷り上がってきたばかりの色校正が届いた。

暗室かどこか特別な部屋で広げるのかと思いきや、

三菜さんは、さもふつうに、リビングで最終確認をはじめる。

 

「この本が、誰かの手元に届いた時、

どこでみるのだろうって考えると、

リビングがちょうどいいのかなと思って(笑)。

家で過ごす、ささやかなひとときのそばにあってほしいから」

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スピーカーから、音楽が流れている。言葉のない物語のような音楽。

 

「Penguin Cafe Orchestra 。知ってる?本当?

私、すっごく好きなの!

森に行く時に、いっつも聞いてたの!

あの頃見たもの、感じたことが浮かび上がってきて、

森の写真をみる時は決まって必ず、この音楽!(笑)」

 

じっと写真をみつめていた三菜さんが、

子どものようにはしゃぐ。

そして、思い出したかのように、一言つぶやいた。

「森の写真を撮り続けていたあの頃には、

もう戻れないし、戻らない。

だけど、森で過ごした時間があったから、

私は、自信をもてるようになった」

 

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ーーー「じゃあ、ちょっと森に行ってみよっか」

そう言って、三菜さんは車を走らせた。
後部座席にカメラを乗せて。

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森に入った瞬間、

三菜さんの表情も呼吸も、すっと静かになった。

まるで、森に重なっていくかのように。

 

三菜さんが足を止める。風が吹く。木が靡く。

雲間から、ときおり太陽が照らす。シャッターを押す。

 

「あの頃と同じ森の写真は撮れないけれど、

これからも、いいなと思った瞬間を撮り続けていきたいな。

森でも、家族の写真でも」

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しばらくして、僕たちはもう一度「森の写真館」に戻った。

そして、三菜さんが、この時の写真を一冊の写真集にしてくれることに。

DSC_8757_1

この日の最後に、三菜さんは言った。

 

「じっくりと自分と向き合う時間がここにはあるから、

私は私のままでいられるような気がする。

帰ってくる場所があるから、私は安心して、どこへでも行ける。

 

これからは、もっと色々な場所で写真を撮る生活もしてみたいな!

いい瞬間に会いに行くことが、ある意味で私の仕事だからっ(笑)。

写真家って、ラッキーな人じゃないとね!」

 


-INFO-

「森の写真館3×7(サンナナ)」

https://www.facebook.com/morinoshashinkan/
0279-82-1575

 

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posted by TAKASHI KOBAYASHI

2011年、大学3年の冬に長野市「旧シンカイ金物店」を友人と改修。生活拠点として、蚤の市やライブ、食事会などを企画。中学校教諭退職後、渡米。帰国後、アパレル販売員を経て、執筆、空間演出、広報などの経験を積む。フードケータリング「Hello,FOLKS!」主催。

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