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haluta 365 REGULAR BOOK

LIVING, LIFETIME BEST

自分史上最高の、居場所のつくりかた

vol.6

October
,20,2016

信州の台所 #3 自然農法の米づくり、3年目の台所

posted by ASAKO FUJINO

 

取材を兼ねて遊びに行かせてほしいとお願いすると、「ちょうど稲刈りをしているので田んぼのほうに来て!」と返事をもらった。
しめた、シメタ。ふたりの田んぼをずっと見てみたいと思っていたから。
ふたり、とは、初めて出会ってからそろそろ10年来となる友人、堀江博幸さん・知子さん夫妻。
ふたりが、浅間山の裏側、標高1100mの森の町・北軽井沢から、温暖な里山地域・小諸に移住して、5年が経つ。

 
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浅間山の南麓、なだらかな傾斜地に、小規模な田畑が点在している。
近くの高台に着いて見渡してみると、黄金色の稲穂に埋もれるように作業しているふたりと助っ人の友人たちの姿が見えた。大きな声で呼んだら、手を振り返してくれた。
本格的に米づくりを始めて3回目の秋。
年々少しずつ田んぼの面積も増やし、今では合計5反歩ほど。
去年まではすべて手刈りをしていたが、今年は近くのお年寄りから使わなくなった手押しのバインダーを譲り受けたので、収穫作業もだいぶ楽になった。
ご近所さんから指導を受けた博幸さんは、バインダーの扱いもお手の物。
一列ずつ刈り取られた稲穂を、知子さんと友人たちが手早く束にしていく。
隣の田んぼでは、数日前に刈り取った分がはぜかけされ、お天道様の光ですでに香ばしい色に変わりつつある。
長雨の影響があったのではと聞くと、心配したような被害はなく豊作とのこと。
ふたりのこだわりである完全無農薬の自然栽培米。
もちろん病気などのリスクは高いが、多少の天候などの変化にはかえって強い面もあるという。
このあたりは、縄文時代から人が住んでいた場所。近くに水が湧き出るところがあって、きれいな水にも恵まれている。
「古くから小規模の農家さんが多く、大幅な区画の変更もされなかったおかげで、僕らのように自分たちの手で少しずつやりたいと思う新規就農者にはちょうどいい場所」と博幸さん。
「これは『イセヒカリ』といって、伊勢神宮の神田で最近になって発見された珍しい品種。どうやって出来たのかはまだよく解明されてなくて、お父さんがコシヒカリであることは間違いないけれど、お母さんの品種はわからないから『天照大神』じゃないかって言われてる。なんかステキでしょ!」と、知子さんもニッコリ。
ロマンチックな謂れがあってもなくても、米づくりのいろはも知らない私から見たら、ふたりがいちから育て上げた一粒一粒だと思うだけで、どんな献上米よりも奉納米よりも上等で貴重なキラキラしたお米に見えてくる。

 
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▲右のふたりが、博幸さん・知子さん夫婦。
 

北軽井沢生まれの知子さんと、東京での金融機関勤務を経て、国内の様々な場所で農体験をしながら北軽井沢に巡りつき、ネイチャーガイド・コーディネーターとして働くようになった博幸さん。
自給自足の畑づくりを始め、キャンプ場に来る都会の子どもたちに野菜づくりやハイキングなど自然と触れ合う機会を企画。
結婚し、子どもを持ってからはますます、農を中心とした小さな循環型の生活を強く意識するようになった。
震災を機に、以前から夢みていた米づくり(北軽井沢では気候と土壌の条件が合わず、米づくりはできない)を実践するため、小諸への移住を決める。
私は当時、北軽井沢から同世代の気の合う仲間が離れてしまうことが寂しかった。
でもこうして、収穫したばかりの稲藁束を抱えて笑う姿を見たら、その決断がまさしくふたりの進むべき道だったことをあらためて確信した。

 
 
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午前中の作業を終えて、昼休み。
向かったのは、車で10分ほどのところ、同じく小諸市内にある「農カフェ わのん」。
築150年の古民家を改装し、ふたりがこの春オープンさせたばかりの新しい“基地”だ。
週の半分はここで、ナチュラルフードコーディネーターの資格も持つ知子さんが、自家製のお米と地場産の野菜を使ったベジ中心のメニューを提供している。
カフェとしての通常営業だけでなく、博幸さんの本業であるネイチャーガイドと組み合わせた農体験や自然に触れ合う体験プログラムなども頻繁に開催。
自然農の魅力を伝えながら、地域に開かれた場所になるように。
店名にも込められた人と人との繋がりの「わ」が広がり始めている噂は、山の裏側まで届いてくる。

 
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お店の日は、早朝から台所に立ち、ランチメニューのためのお惣菜数種類を手早く用意する。
レシピどおりに作るのは苦手。素材そのもののおいしさを味わってもらいたいため、必要以上に手を加えない。毎回その日の野菜を見て、閃いたものを作る。
この日、頂いたのは、カフェの人気メニューのひとつ、ハンバーグカレードリア。
もちもちっとして噛むたびに口の中に甘さの広がる酵素玄米(もちろん昨年穫れた自家製米)に、お肉と豆腐を半分ずつ混ぜたふわっとしたハンバーグと、野菜のダシの効いたカレーソース。ボリュームもしっかりある。
「ベジが中心だからって、味気ないものや食べ応えのないものは出したくない。男の人や普段ベジに関心がない人にとっても満足感のあるものを作りたい」と知子さん。
優しい、というのとも違う。どこか“おふくろの味”に近いおおらかさと骨太さのある味わいだった。

 
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「こうと決めたら突っ走るタイプだから、お店も始めてからはもう無我夢中。田んぼに子育てにお店に、毎日目が回りそうなの!」そう言いながら、知子さんはアハハと豪快に笑う。
つられてついこちらまで一緒に笑いたくなってしまう知子さんの笑い方。変わってないなあ。
「知ちゃんは太陽なひとみたいだから。」
この日出会った友人が呟いた言葉が、まさに彼女の人となりそのものを表している。
その横に、彼女が「夫婦というより同志」と呼ぶ博幸さんが、どしんと揺るぎなく寄り添っている。こちらは例えるなら樹齢数十年は経つ太い幹を持つ一本の木だろうか。
もともとエネルギーに満ち溢れたふたりだったけれど、しばらく会わなかった間に、ひと回りもふた回りも大きく、逞しくなっているようで、眩しい。

 
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▲お米のほかに、小麦、大豆なども自然栽培で。この夏、穫れたばかりの麦も香ばしくておいしそう!

 
自然ゆたかな場所に暮らし、農に携わっているからといって、太陽のように、木のように、まっすぐな人間になれるかといったら、そうとは限らない。
好きなことをやり続けているように見えるふたりにも、子育て真っ盛りの若い夫婦ならではの悩みも葛藤もある。
けれど彼らのすごいところは、農を通じて自然界から学んだものを、自分たちの肥やしにするだけでなく、ネイチャーガイドやカフェという場を使って、常に「外」へ、身の回りの人へ、惜しみなく分け与えようとし続けてきたこと。
その循環の結果がひと巡りして、実質的な実りだけでなく、充足感や、キラキラしたオーラとなって、いま、彼らの元に帰って来つつあるのだと思う。
そしてそれこそは、当然、彼らふたりが受け取るべきご褒美であり、財産であることは間違いない。

 
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posted by ASAKO FUJINO

2004年より浅間山のふもと・北軽井沢に移住。週末のみオープンするブックカフェ「本とコーヒー麦小舎」を営みながら、暮らしまわりや地域文化などを中心に編集・ライター業に携わる。毎年秋に北軽井沢で行なわれる本のお祭り「ブックニック」主催。猫1犬1夫1と暮らす。

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